よいバランスを考える

時代や風土に見合ったヨーガのありかたとは?多様性を認め、他とのバランス・調和を礎にしながら開拓する、ダイエットだけじゃない、社会に貢献できるヨーガの可能性!

― 理学療法士、ヨガインストラクター、ピラティスインストラクターと様々な顔をお持ちですが、なぜ身体に携わる職業に就こうと思いましたか? もともと身体を動かすことをたくさんしてきたということもありますが、ぶっちゃけいうと、どこでも働ける資格が欲しかった(笑)理学療法士の良いところはいつでもどこにいても、自分の手があれば施しができるんです。病人はいつでもどこにでもいるし、人の役にも立つし、社会情勢にも左右されない。仕事はすごく面白かったけれど、でもなんだか交通違反を待っているみたいで・・・いつしか病院で患者を待つのが嫌になっていました。それよりも「予防医学」ケガや病気をしないようになってもらうことが大切。今後はそういうことを推進する国や、病院のシステムの改善も必要になってくると思います。

― たしかに、病院は辛い時にしかお世話にならないですね、気持ちよく通う場所ではないし。その後、ヨガインストラクターになり、ご自分のスタジオを立ち上げましたね。 そうですね、クリニックに転職した後でヨガインストラクターの資格を取得しました。うちのスタジオは「ヨガシナジー」というアシュタンガとアイアンガー、タオヨガをミックスした、「中庸」を目指す東洋哲学のスタイルでヨーガのクラスをしています。今年の1月にオープン1周年を迎えました。

自分にとってのヨーガ(自分のための練習)は、強靭になることや悟るための探求ですし、すごく好きだからやっているけれど、一方ではアクロバティックなアーサナでケガをする人が大勢いるのも現状。それらを踏まえ、理学療法士という医療的な側面からヨーガを見ると、昔ながらの修行のヨーガを提供するのではなくて、現代風に咀嚼して良いところだけを抽出する必要がある。アメリカでは『ヨガフィット(ヨーガを現代的な視点で捉えたもの)』があるけれど、僕はやっぱり、日本独自のものを作りたい。本来ヨーガはエクササイズが目的じゃなくて修行、このアーサナに何の意味がある?いや、意味なんか無いんですよ、どう感じるかだけ(笑)でも、そこに意味を求めるのが近代の思想。その意味づけにズレがなく且つ、身体に良いようにしてあげれば事故も減るし効能も大きくなると思う。今後はそういう時代に見合った"近代的なヨーガ"を目指したいですよね。

― なるほど。意味づけは必要ですね!目標が設定できれば、継続するモチベーションにもなります。 それからケガや病気の予防を考えるならば、前兆であるサインを見つけることが必要。例えば「歯の色が黒い、歯がしみる=虫歯」というように、歯の異常にはわかりやすいサインがある。それに誰もが虫歯にならないように毎日歯磨きをやっているわけだから、歯科業界は予防医学に成功した事例ですよね。この『はかろうぷろじぇくと』に関していうと、脂肪や筋肉量がすばやくわかるので、日頃の健康・バランスチェック(特にダイエット目的のトレーニング)に最適だと思います。もうひとつ提案するならば、測定という「評価」と、ヨーガという「アプローチ」を上手に繋げるプログラムを考えて、定期的な測定とともに体型がどう変化したかをチェックして、個人の数値にあわせたプログラムの提供ができるとなおよしですね。

― サインをみつけるためにも、日々のチェックは大切ですね。ではそのサインを見つけたら自分でどうケアすればよいですか?普通の生徒さんは、オリジナルのプログラムを考えるわけにもいかないですよね。 プログラムはスタジオが提供できるようになれば良いですよね。ヨーガは包括的だから「あなたにはこれが向いている、あなたにはこれ」というものが見つかる筈。便宜上、ヨーガをひとつの改善プログラムと考えて、体組成計で測定した数値や、それぞれの体調・症状に見合ったおススメ『流派ごとの適正表』みたいなものをつくるとか。
いまのヨーガ業界では、流派の特徴を伝えていても、どういう人に向いているかを明記していないですから。例えばファッション雑誌にしても、体型別のコーディネート特集とか「見立てること」をちゃんとやってあげていますよね。もっとたくさんの人にヨーガの魅力を広げるためには、そういう部分を親切にしてあげることが大切。もちろん、この考えには賛否両論が確実に出ると思いますが(笑)

― 「見立てるヨーガ」、素敵ですね!これからヨーガをはじめようか迷っているひとにも、自分に合ったヨーガでスタートできるほうが効率もよいし、断然ありがたいと思います。 でもまだまだ世間一般的には、ヨーガの流派やその特色が知られていないですよね。ピラティスだって本当はすごくたくさんの流派があるのに、ただひとつの「ピラティス」というくくりになってしまっているし。食事でたとえるならイタリアン、フレンチ、和食、インド料理・・・みたいに、今日は何を食べようかなとイメージするのと同じように手軽になればいいですよね。

― でもそうやってメジャーになると日本人は、すぐに流行り廃りに繋がりやすいですよね(笑) 日本人はファジーですからね、過去の歴史を見ても世間の雰囲気で決断することが多くてこだわりがない。でも、逆にそこがいいところでもあるし。ひとつのカウンター的な提案として、バリバリの働き盛りのサラリーマン(ホワイトカラー)の男性達にヨーガをやってもらって、より自己を育てていくのもいいですよね。日本は企業戦士だから下手すると会社や社会の駒になって、失敗したり成功したりふりまわされてしまう。そういう時にスッと自分自身に戻れるのがヨーガ。社会と自分らしさの間で上手にバランスをとっていけるようになる。だから今は、これからの時代をよい方向に導くためのリーダーを生み出すために、ホワイトカラーの男性達にヨーガを勧めたい!男性はブームでやらないから。ずっと続けて、追求もするし(笑)

― たしかに、日本はファジー文化なのかもしれないですね。そうなるとまた別の理由でも、さっき先生が仰っていた「意味づけして牽引する"近代的なヨーガ"」が必要になるのも納得です。 そうなんですよ、あとヨーガをはじめる理由はみんな違っていいと思うけど、あなたにとってのヨーガと、わたしにとってのヨーガが同じである必要はない。そこが仏教でいう「無常」なんですよね。日本の神道では「八百万(やおよろず)」の神といい、仏教では「無」という日本のバックグラウンドがあるんですよ、悪くいえば自分がなくて曖昧だけど、良い意味ではいろんなものを認めて共存することができる。受容的であり、それが強さにもなる。だから無常でありながらも、いま進むべき道をしっかりと見定めていくために「道」にしたわけですよ。神道も宗教も「道」。その道というものに、ヨーガのメソッドもうまく添えるんじゃないかなと思う。だからそこを一神教ではなく多神教的に、受容的で寛大であってほしい。

― 日本はファジーだけれど、他と調和する、バランスをとっていく美点がありますね。 やっぱり「大和(やまと)」だからね。大いなる、和なわけですからね。多様性をしっかり認めながらも、みんながにこやかに居られる方法を探究したいですね。「和して同ぜず」という言葉もあるように、なんでもかんでも同意しなくていいわけだから、要は同じことしなくても和であればいいと。

― そうですね、大切なのはバランスと調和ですね! 社会の中で生きて家族を持ち、周りの人の幸せとか考えていくと、国や世界にも目を向けざるを得なくなってくる。いま日本には自殺者が3万人もいる事実、到底これは普通じゃない、殺人なんかも多いし。こういう世の中をどういう方向に導けばよいかとか、また今後どうやって震災被災者のサポートを続けていくかも考えています。これからは病気のケアだけじゃなく、心のケアが必須。ヨーガにできることは身体を動かしてホッとする瞬間があったり、「辛いことがあったけど、今こうやって深呼吸している」と感じてもらえたりすることだから。3.11以降、日本は分岐点にいますよね。いままでのなんとなく雰囲気で決めてきた風潮から、たとえば原発に対しても「NO」というアクションをはじめてきた。これから日本は変わってくると思う。そこに僕もヨーガで寄与したい。ヨーガでもピラティスでも、どんどん新しいものを提供して、みんながより良くなる方向へ活動をできれば、それが生きている証。子供達の未来ためにも、世の中の出来事に対して他人事にならない、無関心でいない。微力だけど、それが繋がれば大きなアクションになるからね。そういう「幸せってなんだろう?」を考えるものヨーガのいいところですよ。ヨーガはラクをしないこと!わざわざ時間をつくって、わざわざ動くんですから(笑)ヨガはリラクゼーションとかいうけどそうじゃない、積極的に動くから反対のリラックスが得られるんですよね。

― そうなると、ヨーガは幸せを実現するための、自作自演なんですね!(笑) そうそう!本当そうなんですよね。

― ヨーガは"メタボ対策から、世界の平和までを考えられるツール!"私もますますヨーガに希望が持てるようになりました。中村先生、素敵なお話をありがとうございました!

中村尚人(なかむらなおと)中村尚人(なかむらなおと)
幼少より少林寺拳法、合気道を習い、部活では水泳部、登山部、演劇部、軽音楽部と身体や心を動かすことに興味を持つ。理学療法士免許取得後、大学病院勤務6年間、クリニック勤務4年間、老人保護施設勤務2年間と臨床を経験。クリニックへの転勤を機にヨーガに出会い、インストラクターの資格を取得。現在、ヨガスタジオの運営やクラスの指導、書籍の執筆、インソール(靴の中敷)のオーダーメイド製作など、広い視野と間口で「予防医学の実現化」を目指す。
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